出会いは偶然で必然。
「出会い」が持つべき意味を変えられるのは自分でしかない。
先週末、首都カンパラに行っていた。
ウガンダ国内でカンパラは特別だ。
カンパラにしかないものが溢れている。
日本でも、海外でも、
甘いものとおいしいコーヒーが出てくる
お気に入りのカフェでまったり過ごす時間が好きだった。
ウガンダで一番、外国人とお金持ちのウガンダ人が買い物をするモールがある。
そこにあるニューヨークキッチンというカフェでシナモンロールを買った。
甘そうなシナモンロールを苦いコーヒーと一緒に食べられる
居心地の良さそうなカフェを探して
街中を歩いた。
だれかが言っていた、「おいしいコーヒーの出る店」を
暇そうに客待ちをしているタクシードライバーに聞いた。
すると、タクシードライバーは近くにいた中学生くらいの男の子を呼んで
「連れていってあげな」と言い
私はその男の子にカフェまで案内してもらうことになった。
連れて行ってもらったカフェは休みで
男の子は、違うところにも案内してくれたけれど
私はそこを気に入らなかったから入らず、自分でまた街を歩こうと思った。
でも男の子が
「一緒に歩こうよ」「街を案内してあげるよ」
と言ってきた。
少し、ためらった。
理由は、男の子が、裸足だったから。
東南アジアの国で、
裸足のストリートチルドレンに力強い目線で右手を差し出されたことを思い出した。
南米の国で、
スラムに住む裸足の子どもたちと出会ったのを思い出した。
ヨーロッパの国で、
赤ちゃんを抱いて物乞いをしている女性の前を素通りできずに、一緒に座り込んで話をした後
お金をおいていったことを思い出した。
菅野美穂がロシアで、ストリートチルドレンと出会うドキュメンタリー番組を思い出した。
日本の大学の授業で、
「物乞いをしている人に対してどんな態度を取るか」
というディスカッションをしたのを思い出いだした。
人を信じる為に必要ものは何ですか。
相手と過ごした時間の長さ?
出会い方?
相手の家族関係?
相手の性格?
きっとどれもがその要素になる。
だけど私は、そのどれもをすっ飛ばして、
その、裸足の男の子を「信用」した。
だから私とその男の子は、2人でカンパラ市内を4時間くらい歩き回った。
一人で行ったら危ないと言われるカンパラ市内最大の活気溢れるマーケットにも行った。
ひしめき合うマーケットの中で人の手が私の腕を引き留める。
チャイナ!と言いながら中国語のまねをしてくる人。
偽札を両替してくれと迫ってくる人。
そんなマーケットの熱気にもまれている私を見ながら男の子は
「このひとはにほんじんだよ!」
「あれは偽札だよ」
「カバンに気をつけてね」
と、進んでいく。
外国人は足を踏み入れなそうな人々の日常の活気で満ちあふれている
歩いたことのない街を歩いた。
カンパラに、こんな場所があったのかと感動すらするくらいに
私は外国人の行く場所にしか足を伸ばしていなかったことを実感した。
男の子は、裸足のままで街中をぐんぐん歩いていく。
少し歩き疲れた私たちは、ローカルマーケットの中で紅茶を飲んだ。
汚いテーブルに、簡単な長椅子に座って、20円くらいで甘ったるい紅茶が出てきた。
私は、鞄の中にシナモンロールがあるのを思い出して取り出し
男の子と半分に分けて食べた。
おしゃれなカフェで苦いコーヒーと一緒に食べるはずだったシナモンロールを
汚いマーケットの中で甘ったるい紅茶を飲みながら食べた。
甘ったるすぎてあんまりおいしくなかったけれど
なんだか妙に嬉しくなって
汚いマーケットと人々の活気に似合わないシナモンロールを見て笑った。
男の子が教えてくれたのは、
ストリートで寝ていること
両親は死んでいないこと
兄弟もいないこと
学校に行っていないこと
学校に行きたいと思っていること
英語はストリートで習ったこと
小さなものを売りながら毎日街を歩き回っていること・・・
男の子は、自分の友達に会わせるよ、と私を友達がいる場所に連れて行ったり
物乞いをしている人を私に紹介した。
「この人はこわいんだよ。お金をもらえないと石を投げるんだ」
って、私に笑いながら言いながら、年取った物乞いのおばさんに挨拶をする。
「この子たちはグルからきてるんだ」と、裸足の女の子たちを私に紹介する。
グルというのは、ウガンダ北部の街の名前で、つい最近まで内戦をしていて
たくさんの人が亡くなったり
たくさんの子どもたちが誘拐されて子ども兵にされていたところだ。
その影響で
孤児になった子どもたちがストリートチルドレンになってカンパラや大きな街に来ている。
私は日本でウガンダ北部の内戦のことをできる限りの資料を読んで調べていた。
だけど、ウガンダに来たら、私はJICAの下にいるわけで
ウガンダ北部への立ち入りは禁止されている。
安全面の配慮だとは分かるが、北部の、支援が一番必要な地域は、
JICAの対象外で、「ウガンダ」とは別の国のような扱われ方をしている。
だから、男の子がグルから来ている女の子たちを紹介してくれたときに初めて
日本で読んでいた事実がリアルになった気がした。
男の子は、自分が体を洗っている川を見せてくれたり
「実は小さいけど住んでる場所があるんだ」
と言って私を建物の裏の穴蔵みたいなところへ連れて行った。
そこに私が入っていこうとすると
ものすごい勢いで建物のオーナーらしいおじさんが私を呼んだ。
「何をしてる!そこに入っては行けない!私はこの子たちが家の裏に住んでいることを許してはいるが、君がそこに入っていくことがどれだけ危ないことだか分かってるのか!!!」
「君は、その子のことを、どれだけ信用してるんだ!!!?」
と、すごい剣幕で私に怒鳴りつけてきた。
これはまずい、と思い、とりあえずおじさんを静めるために
ごめんなさいね、何も知らなかったの。
と、おじさんの手を握り、笑顔をキープした。
ものすごい勢いのおじさんも、
私の笑顔作戦に負けたらしく、だんだんと和やかな口調になってきたところで
今度は褒めちぎり作戦。
おじさんをほめまくった。
するとおじさん、
和やかモードから今度は「電話番号教えて」と。おい!!笑
まぁとにかく、おじさんは私の安全のために怒ってくれたので感謝して、
そして素直に私も少し反省して、
心配している男の子にごめんね、大丈夫だよ!と言って
男の子の小さなお家の前を後にした。
おじさんが言った
「一体どれだけこの子を信用してるんだ」という言葉が頭に残っていた。
私は、出会って3~4時間のストリーチチルドレンの男の子をそのとき、
友達だと思って、信用していた。
でも、端から見れば私は「ストリートチルドレンに騙されそうな外人」
でしかなかったのかもしれないし
誰にこの話をしても「そんな子について行って大丈夫だったの?」
って言われるかもしれないと思った。
それでも私がその男の子と過ごした時間は
ただ楽しかったし
その子がストリートチルドレンという肩書きを背負っていると言うこと以外は
私にとって何も問題はなかった。
暗くなった大通りで、ここに座ろうと男の子が言った。
見上げると、カンパラで唯一の、街頭テレビ。
なんて言うんだっけ。
ビルの上に付いている宣伝のためのテレビ。
エアーウガンダのCMが流れてきて
男の子は、CMの全ての台詞に自分の声を合わせた。
暗記していた。
暇なときはここに座ってじーっとこのテレビをみているんだろうな、と思った。
夜ご飯を一緒に食べて
私は帰った。
また会いたいと思ったけれど
ストリートチルドレンの男の子とどうやったらまた会えるのか分からなかった。
男の子は、一度も私に、モノやお金をちょうだいと言ってこなかった。
でも私は、バイバイするときに
いつ会えるかわかんないけど、一応電話番号教えてあげる
と言って、電話代にしては高すぎるお金を電話代ね、って渡した。
男の子は嬉しそうに「でんわするよ!」と言った。
私がバスに乗ると、男の子は走って街中に消えていった。
バスの中で、たった今あった出来事が夢だったかのように
今までの現実とはかけ離れていたことでなぜかそわそわした。
JICAのドミトリーに戻ると、日本人の同じ隊員仲間が、変わらずわいわいと過ごしていた。
今回私がカンパラに来たのは、
日本大使公邸にてディナーパーティーと、隊員総会があったからだった。
大使公邸って、ウガンダで生活している私には意味がわからないほどに豪邸だった。
私はたったの2日間で
大使公邸とストリートチルドレンと全くの別世界を過ごした。
大使公邸のパーティーにはウガンダのエライ人も来ていた。
JICAスタッフは、私たち隊員に、「あの人はエライから話しかけなさい」だとか
そんなことを言ってきた。
大使館の人は私がパパイアをお皿一杯に盛っているのを見て
「君、そんなに盛って他の人のことを考えていないんじゃない?」
と冷たく言ってきた。
「こんなに一人じゃ食べ切れません、同じテーブルみんなの分です」
と、心を込めて返した。
人を信じる事って、理屈じゃないと思う。
大使館の人だから信じる、ストリートチルドレンだから信じない
とかそんなんじゃない。
人間として、心のある人を、信じ続けていきたいし
心ある人との出会いを大切にしていきたい。
上辺だけの出会いはつまらなくて退屈だ。
心ある出会いは、お互いの心をもっと豊かにする。
ストリートチルドレンの男の子とはもう会えないかもしれないけれど
心暖まる大切な出会いだった。
そんな事を想った2つの世界のカンパラ滞在だった。
そしてまた
居心地の悪いバスに乗って任地に帰っていったのでした。